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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)831号 判決

控訴人 被告 千葉四郎

訴訟代理人 廬原常一

被控訴人 原告 瀬谷正光

訴訟代理人 内田正己 外一名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の本訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

本件につき原裁判所が昭和三三年八月一五日にした強制執行停止決定中原判決添附目録記載の(1) ないし(3) および(5) ないし(13)の物件に対する部分はこれを取り消す。

前項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、左に記載するほか原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一、控訴代理人は、次のとおり述べた。

(1)、本件物件は訴外三科哲の所有であり、被控訴人の所有でない。三科哲は、控訴人より同人に対する東京地方裁判所昭和三二年(ワ)第二、一九三号貸金請求事件の確定判決の執行力ある正本に基く強制執行を妨害するため、訴外石井秀雄および被控訴人と通謀し、石井が競買により本件強制執行の目的物等の所有権を取得したかのように仮装し、さらに石井より被控訴人がこれを買い受けたように仮装したものである。

(2)、のみならず、本件物件については既に競売が実施され第三者の所有に帰している。すなわち、本件物件は控訴人のため差押がなされていたところ、他の執行力ある債務名義を有する債権者訴外木島豊蔵の執行委任により照査手続が行なわれ、この分については債務者三科が執行停止の申立をしなかつたので、昭和三五年一一月二一日および同月二九日に競売が実施され、いずれも訴外石渡正己が競落人となり、競落代金を支払い、競落物件の所有権を取得した。そして、競売売得金より差押および競売の費用を控除した残額は控訴人と木島豊蔵に配当された。このように、本件物件は競売実施により第三者の所有に帰してしまつた以上、本件物件につき強制執行の排除を求める被控訴人の本訴請求は排斥せらるべきである。

二、被控訴代理人は、

右(1) の主張事実は争う。(2) の主張事実中競売および配当実施の事実は認めるが、控訴人に対する配当実施は執行停止中になされたもので違法である。

と述べた。

三、立証として、控訴代理人は乙第八ないし第一一号証を提出し、被控訴代理人は右乙号各証の成立を認めた。

理由

控訴人が訴外三科哲に対する東京地方裁判所昭和三二年(ワ)第二一九三号貸金請求事件の判決の執行力ある正本に基き、執行吏に委任して、昭和三三年八月五日原判決添附目録記載の物件に対し差押をしたことは当事者間に争いがない。

そこで、控訴人が当審で主張する(2) の点について検討する。成立に争いのない乙第八ないし第一一号証および控訴人主張の競売手続に関し被控訴人の争わない事実を総合すれば、本件物件について、控訴人の委任にかかる強制執行は、本訴第三者異議の訴の提起に伴う被控訴人の申立により、昭和三三年八月中に停止されたが、その後控訴人以外に前記三科哲に対する執行力ある債務名義を有する債権者訴外木島豊蔵の委任に基き、執行吏において昭和三五年一〇月頃本件物件その他について照査手続を実施したところ、被控訴人は該強制執行については第三者異議の訴を提起せず、したがつて執行の停止もなされなかつたので、執行吏は、同年一〇月二一日および一一月二四日の両度にわたり本件執行の目的物についても競売を実施した結果、訴外石渡正己が競落人となり、他の物件とあわせ代金合計二一、五五〇円の支払を了してこれが所有権を取得し、控訴人は昭和三六年一月二〇日右売得金中から本件債務名義による債権額五四〇、〇八〇円に対する配当として金一五、七五〇円の支払を受けたことを認めることができる。してみれば、本件物件に対する強制執行は、前記木島豊蔵の委任による競売および配当の完了によつて終了したものというべく、よし控訴人に対する売得金の配当が執行停止中のため違法であるとしても、そのことのため執行終了の事実を左右するものではない。

以上の理由により、被控訴人が排除を求めんとする本件強制執行の手続は既に完結したものであるから、本訴は訴の利益を失うに至つたものというべきであつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は失当であることに帰するので、民事訴訟法第三八六条によりこれを取り消し、本訴はこれを不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六条第八九条を、強制執行停止決定の取消および仮執行の宣言につき同法第五四八条第一、二項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原増司 裁判官 山下朝一 裁判官 多田貞治)

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